寒気が身にしみる季節となりましたが、皆様お変わりなくお過ごしでしょうか。
最近では、テレビの影響もあり歯周病が全身に影響を及ぼす怖い病気と認知されつつあるように感じます。
そんな歯周病に歴史上の人物も苦しめられていたかもしれません。
それは源頼朝です。
1185年、壇ノ浦の戦いで平家が滅亡し、頼朝は征夷大将軍に任ぜられ、独裁権力を握ります。
その後、大江広元ら有能な官僚による統治システムを進めますが、1198年12月27日、相模川で催された橋供養からの帰路、落馬して体調を崩し、翌年1月13日に死去しました。
死因に関しては諸説ありますが、落馬の際は一過性の脳虚血発作であり、一旦は回復したものの、その後も致死的でない発作を繰り返し、水を飲んで誤嚥し、肺炎から敗血症をきたして死亡したのではないかと考えられている説があります。
いずれにせよ、それまでの『吾妻鏡』には頼朝の健康に関する記載がほとんどありませんが、死去約4年前に歯の病に苦しんだという記載があるようです。
もし歯周病であったとすると、単に口腔内の炎症であるのみならず、心内膜炎、アテローム硬化、脳梗塞、虚血性心疾患、糖尿病などのリスク因子となります。
さらに歯周病患者では、口腔内の嫌気性菌自体が誤嚥性肺炎のリスクとなります。
度重なる暗殺未遂、そして幕府設立に至る権力闘争で多くの一族や部下を粛清してきた頼朝の絶え間ないストレスは、歯周病を悪化させ、歯周病が孤独な権力者の全身を蝕んでいったのかもしれません。
もしこの時代に頼朝が適切な歯科治療や口腔ケアを受けることができていれば、倒れて寝たきりになっても誤嚥性肺炎で死んでしまうことはなかったかもしれません。
歯周病は、虫歯と並ぶ歯科の2大疾患のひとつです。
厚生労働省が3年ごとに実施している「患者調査」の平成29年(2017)調査によると、「歯肉炎及び歯周疾患」の総患者数(継続的な治療を受けていると推測される患者数)は、398万3,000人で、前回の調査よりも66万人以上増加しました。
軽度のものも含めると、成人の約70~80%の人が歯周病に罹患していると言われています。
口腔内だけでなく全身疾患の予防のためにも、歯科治療と口腔ケアを徹底していきたいですね。
(参考文献:早川智『戦国武将を診る』朝日新聞出版)
歯科医師
末次里沙