妊娠中の歯科治療

妊娠中に現れやすい症状

歯肉炎

歯周病菌は女性ホルモンを栄養源としています。そのため、妊娠中はエストロゲンと呼ばれる女性ホルモンの増加や内分泌の変調により、歯肉が赤くなり腫れやすくなります。ときに歯肉から出血をすることもあります。


歯肉炎


エプーリス(歯肉腫)

歯肉炎の症状が進行すると、お口の中に増殖性の腫瘤ができることがあります。大きさは2~数cmで、妊娠3ヶ月頃から発祥して、出血しやすくなります。

歯肉腫


う蝕歯(むし歯)

妊娠すると、口の中の唾液が酸性になり粘っこくなったり、つわりなどで食事の回数が増えて口の中が汚れやすくなるため、むし歯になる可能性が増大します。

とくに近年、母親が中等度から重度の歯周病(歯肉炎の進行した状態)にかかっていると、低体重児を出産しやすくなり、喫煙やアルコールよりも大きな影響を及ぼすと言われています。これらのいずれの症状も、口腔内の清掃・プラークコントロールによって充分に予防できるものです。バランスのよいお食事を取り、つねにお口の中を清潔にしておきましょう。

妊娠中の栄養と歯の関係

栄養は欠かさずに

妊娠すると内分泌の変調やビタミン代謝の障害などにより、栄養バランスが崩れやすくなります。それによってお口のなかに障害が発生したり、胎児の歯の形成にも影響を及ぼす可能性もあるので、常にバランスの良い食事を心がけましょう。

妊娠中不足不足がちのビタミン類

妊娠中はビタミンA,B,C,Dが不足しがちです。特にビタミンBの不足は歯周組織に悪影響を与え、歯肉炎を悪化させてしまいますので、偏食は避けましょう。特に妊娠初期は、胎児の歯の形成がはじまるので、栄養には充分注意してください。とくにタンパク質、リン、ビタミンA,Dなどが歯には大切ですので、肉、魚、卵、乳製品、緑黄色野菜などを、しっかり摂りましょう

たんぱく質 胎児の細胞を作る栄養素です。肉、魚、卵、乳製品、穀類に多く含まれます。
カルシウム 胎児の骨や歯などをつくる栄養素です。牛乳、乳製品、小魚類に多く含まれます。
鉄分 妊娠中は鉄分の不足ににより貧血になりがちです。
レバー、卵黄、肉類、ほうれん草、大豆製品に多く含まれます。
ビタミン ビタミンAは体の発育や抵抗力をつけ、ビタミンB1が不足すると手足のしびれや、
むくみが起こりやすくなります。ビタミンEは流産の予防にかかせません。
これらビタミンを含む食物は、レバー、青魚、緑黄色野菜、果物、豆類、バター、牛乳などです。

妊娠したら、歯の健康診断を受けましょう

早期チェックで未然に防ぐ

歯や歯肉の病気は、最初のうちはあまり気が付かないものです。とくに、妊娠中はお口の中の健康が悪化しやすいので、妊娠したら早期に歯科医院で健康をチェックしてもらいましょう。

歯医者へ行ったら・・・

必ず妊娠していることを告げてから診察を受けましょう。その際に、最終月経や妊娠週数、出産予定日を告げてください。妊娠中の治療で最適な時期は、妊娠4ヶ月から7ヶ月の間です。この時期はいわゆる安定期で、流産の危険も少ない時期です。

妊娠は女性の生涯にとって極めて特別なできごとであり、情緒不安定にもなりやすいものです。歯科医師とのコミュニケーションを上手くとり、より良い信頼関係を築くことは、患者さまにとってもドクターにとってもストレスと不安を大きく現象させ、治療を成功に導く秘訣です。治療に納得できない場合や、妊娠中毒症などの合併症をもっている方は、産科主治医と連絡をとってもらいましょう。

X線検査と投薬について

レントゲン(X線)撮影

妊娠中はなるべく避けるべきです。ただ、どうしても治療上必要であれば、妊娠4ヶ月以降の安定期に、プロテクターをつけて安全性を確保したうえで行ってください。

薬物の使用

レントゲン撮影同様に使用しないのが最善ですが、治療上必要な場合は慎重に使用しましょう。

①抗生物質

妊娠8週以内は、胎児奇形の発生に影響するので避けた方がよいでしょう。比較的安全な抗菌剤は、「ペニシリン系」、「セフェム系」、「マクロライド系」で、常用量で4~5日までの服用とします。

②鎮痛剤

動脈管収縮作用の強い薬剤を避けましょう。比較的安全な鎮痛剤でも、頓服として1日1~2回までの服用がより安全です。(例、アセトアミノフェン、フェセナチン、塩酸チアラミド)

妊娠中の歯科治療Q&A

Q1,親知らずが痛みだしたのですが?

A1,まず、歯科医院で健診を受けましょう。分娩後まで延期できるようであれば、応急処置にとどめますが、抜歯が必要であれば安定期(4ヶ月末~7ヶ月)に処置を行うべきです。できれば、妊娠前に歯科検診を受け、必要な処置は済ませておきましょう。

Q2,麻酔は大丈夫ですか?

A2,必要際少量の使用にとどめるのはもちろんですが、通常の歯科治療で使用する量は問題ありません。麻酔時の痛みを最小限にしてストレスを避けるようにしてもらいましょう。

Q3,治療で仰向けになると苦しいのですが?

A3,妊娠末期には仰向けの姿勢を永く続けると、子宮が下大静脈を圧迫するため血圧が低下することがあります。体を左に傾けることによって和らぎますが、治療の際は完全な水平位ではなく、座った姿勢で行ってもらいましょう。

Q4,投乳中なのですが薬は大丈夫ですか?

A4,なるべく薬剤を投与しないことが望ましいのですが、抗生物質が母乳を介して新生児へ移行する量は微量なので、常用量で短期間なら問題ないと考えられています。もし可能であれば、服用中のみ一時的に粉ミルクなどの人工哺乳に変えるのも良いでしょう。